先に名人戦第4局が高野山で開催されたことをお伝えした。
勝利をおさめた郷田九段に新聞記者が質問している。「将棋で勝っても喜びをあらわにしないんですねえ?」と。記者自身もぶしつけな質問と評している。
「負けた相手の前で喜ぶなんて、失礼でしょう」と郷田九段は答えている。
そんなやりとりを傍らで聞いていた将棋専門の記者が「将棋は敗者が『負けました』と言わなければ勝負が決まらない。スポーツも含めて、こんな厳しい競技はないでしょう」と助言。
球技などでは「試合に勝って勝負に負けた」とも言われることがある。ルール上の「ゲーム終了」はあるわけだが、心のどこかで“敗戦”を認めたくない気持ちがあることもある。
そんなもやもやした気持ちではなく、どこか武道にも通じるような精神が宿っているのだろうかと感じ入る。
20日の午前9時に始まったこの対局、終了したのは翌21日の午後8時43分。羽生名人が「負けました」と頭を下げた。
「見ているだけで緊張感から逃げ出したくなりました」「どんな頭脳と精神を持っているのか、ほとほと感心しました」と、この記者はしめくくっている。